何者でもない少女達のススメ

聡明なうら若き乙女達が、強い自意識とそれに追いつかない現実の間で揺れる姿が好きです。

……あ!ちょっと待って!ブラウザを閉じないで!小説の話ですから!(だとしてもアウト?いやいや…)

小さな世界のなかで、漠然とした希望と不安を抱きながら、毎日うまく生きていくことに必死な姿は痛々しくもあり、どこか力強い。葛藤が美しくなるまでにかかる時間は、きっと分かり合えるより遥かに長い。そんな小説を二つほど。


終点のあの子/柚木麻子」より「フォーゲットミー、ノットブルー」

 

終点のあの子 (文春文庫)

 

これはもう自分にとってはすごく思い入れの深い小説で、手巻き式の時計のネジを回すかのごとく、数ヶ月に一度、定期的に読み返しては、吹き抜けた春一番を身に浴びたような感傷と爽やかさに悶えています。この小説には4編の話が収められているのだけれど、そのなかでもとりわけ自分が好きな作品「フォーゲットミー、ノットブルー」について。

あらすじ
プロテスタント系女子高の入学式。内部進学の希代子は、高校から入学した奥沢朱里に声をかけられた。海外暮らしが長い彼女の父は有名なカメラマン。風変わりな彼女が気になって仕方がないが、一緒にお昼を食べる仲になった矢先、希代子にある変化が。


女子校の話でして、そこは自分にとって全く無縁の世界なんですけれど、情景がすごくありありと伝わってくる。人間関係の微妙な揺らぎと、その中における自分の立ち位置の不確かさ。今の自分じゃない特別な誰かになりたくて、けれどなれなくて。憧れが憧れのまま手に届かないものだと気づいた時、それは敵意に変わってしまうのかな。無自覚に他人を傷つけたり、傷つけられたり、そのことに気付くのは、いつだってほんのちょっとだけ遅いのかもしれない。


もうひとつの作品はこちら。

「ラジオ ラジオ ラジオ!/加藤千恵

 

ラジオラジオラジオ!

 

こちら舞台は北海道より旭川市(作中では明言されていなかったかも)。決して田舎じゃないけれど都会には程遠い。そんな閉塞感が物語を一貫している

あらすじ
地方都市に住む高校三年生のカナは、一刻も早く退屈なここを出て、東京の大学に行って、将来はテレビ局で働きたいと思っている。「東京はここよりも、インターネットの中の世界に近い気がする。早く本物の場所に行きたい。」ある日、カナは 地元ラジオ局のパーソナリティー募集をフリーペーパーの広告で見つける。以前から声が好きだった友達のトモを誘って面接を受けたところ、ラジオのパーソナリティーとして、週に一回、「ラジオラジオラジオ!」という番組を持つことになる。だが進路決定が近づくにつれて、二人の未来への夢は次第にすれ違い始めて……。


まず、設定がすごくエモーショナル。ここじゃないどこかへ誰かが連れて行ってくれるのを待っている。自分にはもっと相応しい場所があるはず。そんな勘違いも甚だしい思い込みさえ、自分は周りと違うと思う根拠になってしまう。見えてるものが全てで。というより、自分に都合の良いことしか目には写らなくて。そんな身勝手さは忌々しくもあり、それでいてどうして理解できてしまって嫌いになれないのは、身に覚えがあるからだろうか。それとも、そんな自分がまだどこかにひっそり隠れているからかもしれない。


そんなわけで、ここに小説を二つ紹介したわけなのだけど、共通して描かれているのは、何者にもなれない何者でもない少女達の姿。漠然とした不安はいつだって尽きることはなくて、でもいつだって思い描く姿があるわけで。乙女達が孤独な戦いのなかで傷つきながら成長していく姿は、やっぱりしなやかな強さをたたえて美しいのです。